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篠田博之の「週刊誌を読む」

入試カンニング騒動への疑問

 あれほど大騒ぎしたマスコミ報道がパタッと止んでしまったのが大学入試カンニング事件だ。大掛かりな犯罪かと思っていたら、手口も含め、意外に単純な事件だった。しかも大騒ぎしたことへの批判も起きているから、取り上げにくいということなのだろう。 
 でも、あれだけ大報道したのだから、もう少しフォローも行うべきではないだろうか。というのも、逮捕された予備校生についての週刊誌記事を読むと、事件についての印象が違ってくるからだ。
「19歳予備校生を追い詰めた父の排ガス自殺、母の金銭苦労!」と、見出しからしてプライバシーに遠慮なく踏み込んでいるのは『女性自身』3月22日号だ。少年が高校三年だった一昨年秋、父親が排ガス自殺を遂げたというのだ。
『女性セブン』3月24日号によると、それ以後、「母は町内の介護施設で働き、暮らしを支えた」。月収は十五~二十万円程度で、息子の予備校の費用として年間約二百万円を払ったほか毎月五万円を仕送りしていたという。予備校生が、学費の安い京大に合格して母を安心させたかったと動機を語ったという背景には、そんな事情があったのだ。
 そういう事情を知ったうえでのせいか、週刊誌に登場する論者のコメントは、大半が警察を介入させた京大に批判的だ。『フライデー』3月25日号によると、京大にも抗議が殺到しているという。
 大学の自治という観点から批判を行っているのは作家の佐藤優さんだ。「京大当局は、試問題がネットに投稿されたことが明らかになった後、パニックを起こした。自らの手で事実関係をきちんと調べようとせずに『お上』(京都府警)に告発するという行為は大学の自治を自ら放棄するに等しい」(『週刊金曜日』3月11日号)
 この事件、大学のあり方についても一石を投じたようだ。コラムニストの神足裕司さんは『SPA!』3月15日号で「揺らいでいるのは受験制度ではなく、大学そのものだ」と書いている。
(月刊『創』編集長・篠田博之)

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