トップ> 篠田博之の「週刊誌を読む」 >秋葉原事件加藤被告が語った動機 8月8日掲載

篠田博之の「週刊誌を読む」

秋葉原事件加藤被告が語った動機 8月8日掲載

 被告人質問が行われた秋葉原事件・加藤智大被告の公判を三日間にわたって傍聴した。犯行動機をめぐって加藤被告と検察側が食い違い、興味深いやりとりが展開された。
 加藤被告は、事件直後は「復讐」と言い、公判では「アピール」と言っていたのだが、問題は、無差別殺傷が誰へ向けての「アピール」だったのか、ということだ。検察側はネット社会を含む世の中と捉え、加藤被告はネット社会に限定した。
 そのネット空間は加藤被告にとって何だったのか。『週刊朝日』8月13日号に政治学者の中島岳志さんが、この裁判の傍聴記を書き、こう述べている。
 「彼は、同じネタを共有できる掲示板仲間を『本音でものを言い合える関係』と認識し、『建前』が支配する現実世界の友人は『本当の友人』ではないと考えていた」「ウエブ空間が、彼にとっての"居場所"となった」
「現実は『建前』で掲示板は『本音』。そう語った彼の言葉にこそ、この事件と現代社会を読み解く重要なカギがある。
 彼はなぜ具体的な友人がいたにもかかわらず孤独感に苛まれ、ネット上の仲間にのみ『自己承認』を求めたのか」
 加藤被告が法廷で語った動機は、このネット空間という最後の居場所を、荒らし行為によって破壊されたことがどんなに自分を苦しめたか、ネット住人に知らしめようとしたということだった。
 裁判では、彼の育った家庭についても詳しい言及がなされた。家族の崩壊的な状況が彼の人格形成に影を落としたことは明らかだ。 
『週刊文春』8月12・19日号は「秋葉原通り魔加藤智大 バラバラの家族」と題して加藤被告の実家を直撃取材している。既に両親は離婚し、「実家は今もカーテンが引かれ、父親一人がひっそりと暮らしている」。
 買い物袋を持って帰宅途中の父親は、記者にこう語ったという。「私たち家族の関係は事件前からすでにバラバラになっていました」「ずっと一人で、家族とは夢ですらしばらく会っていません」
 今の社会で人間の関係がどんなふうに壊れつつあるのか。この事件は幾つもの深刻な問題を提起している。
(月刊『創』編集長・篠田博之)

トラックバック(0)

このブログ記事を参照しているブログ一覧: 秋葉原事件加藤被告が語った動機 8月8日掲載

このブログ記事に対するトラックバックURL: