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「情報源秘匿」狙い撃ち/ 調書掲載本強制捜査・誌面での「反論」期待

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どうして週刊誌はこの 問題をもっと取り上げないのか、と思う。ジャーナリスト草薙厚子さんの著書『僕はパパを殺すことに決めた』をめぐる強制捜査についてである。 その本は昨年、奈良で起きた少年の自宅放火事件を扱ったものだが、少年らの供述調書を多量に掲載したことで七月に東京法務局の謝罪勧告が出されていた。そして九月十四日に秘密漏示容疑で草薙さんと、少年の鑑定にあたった精神科医の自宅などに奈良地検の家宅捜索が行われた。

 当局の狙いは恐らく調書流出ルートの解明と、場合によっては処罰による見せしめだろう。草薙さんは二十三日に会見して情報源については「命を差し出しても言えない」と語った。
 特集記事でこの問題を取り上げたのは『週刊朝日』10月5日号である。見出しは「『知る権利』の侵食が始まった」。記事中に今回の捜査について「精神科医や草薙氏の逮捕も視野に入れているようだ」という検察関係者の恐ろしいコメントも書かれている。逮捕者が出る事態になれば、今後事件報道がやりにくくなるのは明らかだろう。

 記事には山口一臣編集長の見解が「邪な動機の『言論への強制捜査』看過できぬ」と題して付けられている。「今回の捜査は『言論に対する権力の介入』などと大上段に構える以前に、供述調書の流出という失態を糊塗(こと)しようという邪(よこしま)な動機が見え隠れし、到底看過できるものではない」。

 草薙さんがよく執筆している『週刊現代』始め他誌は今のところこの問題をあまり取り上げていない。講談社では『フライデー』10月12日号が「草薙厚子氏への強制捜査は『言論弾圧』 検察の暴走が『少年事件の闇』を深くする」と題して一ページ扱っただけだ。
 捜査が続行中で扱いが難しいという事情もあるのかもしれないが、講談社は、問題の草薙さんの本を出荷停止にしたことの説明も含め、ぜひ『週刊現代』でページをさいて取り上げてほしい。
 この事件は、少年法の精神や遺族の人権をどう考えるかということと、もうひとつジャーナリズムにおける情報源秘匿の問題に関わっている。権力の持つ情報をゲリラ的にスッパ抜くのを信条としている週刊誌にとっては他人事でない。
 言論表現の領域への国家のあからさまな介入が前例として重ねられていく事態を黙って見ていてはいけないと思う。  

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