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篠田博之の「週刊誌を読む」

事件記者引き抜き合戦/仁義なき戦い でも待遇改善は歓迎?

 先頃出版されてベストセラーになった斎藤寅(しん)著『世田谷一家殺人事件』が思わぬ波紋を呼んでいる。ノンフィクションで二十五万部というのは異例のヒットと言ってよいのだが、一方で週刊誌界からは異論が噴出しているのだ。

 まずは『週刊朝日』7月21日号「疑惑のベストセラー 遺族も首を傾げる『世田谷一家殺人事件』」。本に書かれた内容を検証し、事実と異なる点を指摘。草思社の前に他の出版社へ持ち込まれて「内容がおかしい」と断られていたという事情も暴露した。

『アサヒ芸能』7月20日号も「25万部ベストセラー本の『疑惑部分』」と題して同書の内容に疑問を呈している。副題は「『これは妄想だね』警視庁刑事が失笑した」。 

 もともとこの事件については、これまで様々な犯人説が唱えられ、週刊誌間で論争も行われてきた。今回の本は外国人グループ犯人説なのだが、著者は元『週刊新潮』記者で、同誌での取材をベースに書いたものという。今回のように異論が噴出するのも、犯人像をめぐって諸説紛々だったこれまでの経緯を反映したものと言えよう。

 ノンフィクションをめぐってこんなふうに論争が起こるのは私は悪くないと思うのだが、発売元の草思社は今回の週刊誌記事に怒っているらしい。ま、そりゃそうか。
 
 事件ものといえば、最近、週刊誌間で事件記者の引き抜きが目立つ。『週刊朝日』の巻頭記事にしばしば署名入りで登場する時任兼作さんは、この春まで『週刊ポスト』のエース記者だった。引き抜かれた『週刊ポスト』には激震が走ったという。『週刊朝日』は、昨年テコ入れ人事で就任した山口一臣編集長の「事件ものに力を入れる」との方針のもと、次々と事件記者をスカウトしている。
 
 同じくテコ入れ人事でこの春、加藤晴之編集長が就任した『週刊現代』は、『週刊文春』から西岡研介記者を引き抜いた。西岡さんは元々、『噂の真相』で数々のスクープを飛ばし、『週刊文春』に引き抜かれた人だ。 こんなふうに記者の引き抜きが目立つのは、低迷に苦しむ週刊誌界が仁義なき戦いに突入したことの反映とも言える。実力ある記者は、引き抜かれるたびにギャラが上がっていくから、この風潮は週刊誌記者にとって悪いことではないかもしれない。何しろ週刊誌界で社員とフリー記者の待遇格差は、長年語り草になってきたことだから。

東京新聞 2006.07.17掲載/メディア批評誌「創」編集長・篠田博之

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