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創出版: 2006年8月アーカイブ

 昨日28日は言論に関わる2つの事件があった。ひとつは新聞で大きく報道されているが葛飾区のビラ配布で逮捕された僧侶に無罪判決が出たこと。ビラというのは市民誰にも開かれた最も身近な表現手段だ(行く行くはネットがそれに代わる可能性大だが)。それを行っただけで逮捕され長期間塀の中にぶちこまれるというのは無茶苦茶な話で、そういう無茶苦茶なことがこの2~3年頻発していることに、もっと多くの人が危機感を持つべきだと思う。ビラをまいたのが共産党だから自分には関係ないというのではすまされない。

 もうひとつは、以前『創』でも紹介した鳥越俊太郎さんが編集長を務めるネット新聞「オーマイニュース・ジャパン」がスタートしたこと。韓国では市民メディアとして大きな影響力をもっているこの新聞が果たして日本でうまくいくのかどうか。創刊の記者会見は大手マスコミが大勢つめかけ、にぎやかだった。

 私も会見を取材しに行ったのだが、会見終了後、2つのメディアの取材を受けた。ひとつは「ニュース23」、もうひとつは「ビデオニュース」だ。

「とりあえず注目されて創刊したことはよいことだが、本当に真価が問われるのはこれからだ。同じ構想をもった人は日本でも多かったが成功した例はこれまでなかった。オーマイニュースも成功するかどうかまだ全くわからないと言ってよい」という趣旨だった。「ニュース23」は見てないけど、たぶん時間枠の関係でコメントはボツになったと思う。

 もうひとつ、昨日の毎日新聞が「許すな!言論テロ」という大きな記事を掲載していたが、ぜひ読んでおいてほしい。加藤代議士宅放火事件やノンフィクション作家・溝口敦さんの家族へのテロなど、このところ言論テロが頻発している。問題は報道機関がいまひとつ取り組みが弱いことで、この毎日の取り組みは評価できる。本当は朝日新聞が、自らも赤報隊事件で死者までだしているのだから敏感であるべきなのに、いまや腰が定まっていない。毎日新聞や東京新聞の方がこういう問題には敏感だ。

 ちなみにこの毎日の記事には私のコメントも載っている。わかりにくいまとめかたをされているのだが、要するに「こういう言論テロに言論機関や社会の反応が鈍いことが問題ではないか」と言いたかったわけだ。小泉首相は昨日、ようやく加藤代議士宅放火を非難するコメント出したが、あまりに遅すぎる。というか、もともと事件の発端が靖国問題だから、なかなか複雑なんだけれど。加藤宅放火事件については28日付東京新聞の私の連載コラム「週刊誌を読む」にも書いたので読んでほしい。      (篠田博之)

 加藤代議士宅放火事件はイヤーな事件だった。異論や少数意見を暴力的に排除しようという排外主義の気運が日本社会にますます強まっている。テロを覚悟せねば自由にモノが言えないとなれば言論は明らかに萎縮していくだろう。ちなみに加藤宅放火事件についてあちこちでコメントした鈴木邦男さんは『創』の連載執筆者で、自身も放火にあっているのだが、創出版も一度、郵便受けに火のついた本を投げ込まれ、消防車がやってくる騒ぎになった。火がすぐに消えたのは犯人がガソリンを使わなかったからで、放火は油を使うかどうかで規模が決まる。って別に放火を推奨してるわけではないけど(笑)。

 発売中の月刊『創』9・10月合併号で、俳優の佐野史郎さんと森達也さん、鈴木邦男さんの『創』連載執筆者が天皇タブーについて議論をしている。言論のタブーといっても若い人たちにはもうピンと来ないのかもしれない。

 この座談会は先月収録したのだが、映画やドラマでしか見たことのなかった佐野史郎さんの話が面白かった。この人、もともとアングラ劇出身だし、あたりさわりない話しかできない芸能人ではないので、もっと雑誌のトークなどに登場してほしいと思う。

『創』は合併号で次号は休みなので今月は『マスコミ就職読本』の編集に専念。『マス読』は9月11日頃から順次1~4巻が発売される。ぜひ楽しみにしてほしい。
                                            (篠田博之)