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2009年4月アーカイブ

 あまりにも深刻な事態で、言葉を失うほどだが、昨日、『週刊文春』を始め、毎日新聞、産経新聞などで一斉に、『週刊新潮』で連載された朝日新聞阪神支局襲撃の実行犯実名手記が全くの虚報だったことが報道された。『週刊新潮』廃刊の声が出ても不思議でないほどの歴史的な事件といってよい。
 同誌は来週号で見解を表明するとしているが、このところ名誉棄損訴訟で敗訴判決が続いた同誌にとって甚大なダメージとなることは確かだろう。
 先頃の日本テレビの「バンキシャ」虚報事件も、あまりのひどさに皆が驚いたが、こうした事件が続くことは、マスコミ界で何かが崩壊しつつある証なのかもしれない。
 先週末の北朝鮮「ミサイル」騒動も、テレビの報道ぶりはひどいもので、まるで戦時中の国家総動員体制を思わせた。ああいう時こそ、冷静で科学的な分析と市民への告知が必要なのに、ただ「大変だ~」と騒ぐだけの、しかも報道局員自身が慌てて騒いでいるような映像を繰り返し流すという何の見識も感じられない報道だった。

 この20年ほど、マスコミは影響力を巨大化させ、権力性を肥大化させたのだが、自分たちが誰のために何のために報道をしているのかという根本のところがものすごい勢いで空洞化してしまっているとしか思えない。これは考えてみれば恐ろしいことだ。

 で、もうひとつ書いておきたいのは、マスコミを受験する人のなかにも、ただ大企業で人気のある業種だからという理由だけで、自分が何のために何をやりたくてマスコミをめざすのかあまり考えない人が多くなっているような気がする。それだけマスコミが産業として大きくなり社会的認知度が高くなったことの結果ではあるのだが、この何年かとんでもない事件が頻発することと、それはひとつながりのことであるような気がする。

 ......って、マスコミをめざす人たちが読んでいるメルマガにあまり悲観的なことを書いてはいけないのかもしれないが、これから業界に入ろうとする人たちには、ぜひ自分が何のためにマスコミに入ろうとしているのか考え、その原点を大切にしてほしい。この何年か、倍率の高いマスコミに入社しながら、精神的不安定になったりする人が少なくない。実際に仕事をしてみて、自分が何のためにその仕事をしているのかわからない、目的を見失ったという人が結構多いのだ。そういえば『週刊新潮』にも3~4年前、4月に新卒で入社して12月に自殺した人がいた。

「バンキシャ」問題や今回の『週刊新潮』事件、これからマスコミをめざす人たちもぜひ関心を持ち、一緒に考えてほしい。      (篠田博之)