<週刊誌を読む>

規制すべきは「官」 警察情報が『武富士』へ  
                 
(東京新聞03年5月26
日掲載)

 前回取り上げた『週刊プレイボーイ』の警察情報流出追及をめぐっていろいろな動きがあった。警察の保有する犯歴情報が消費者金融・武富士に流れており、武富士側の警察接待を示す内部資料も存在する。同誌が5月27日号で告発したその話は、個人情報保護法案を審議していた参院特別委員会でも問題にされた。 ところが、その内部資料の提供者だった武富士元社員が、二十日、恐喝未遂容疑で警視庁に逮捕された。ちょうど国会で警察腐敗が追及されているさなかに、その情報源が警察によって身柄拘束されたのである。

 逮捕されたN氏は、昨年まで武富士の渉外担当として、裏工作を担っていた人物だ。それが内規違反を理由に昨年解雇され、辞める際、内部資料を大量に持ち出した。その資料の一部は、昨年末『サンデー毎日』にも掲載されたし、武富士のマスコミ工作の実態を示す部分は、私の雑誌『創』でも紹介した。武富士と警察の癒着を示す資料の存在はその頃から指摘されており、それを今回誌面化したのが『週刊プレイボーイ』だった。

 同誌の告発は6月3日号でも続けられ、この第二弾では、警察官の借金状況など、武富士が持っている信用情報が警察に密かに渡されていた事実が暴かれている。第一弾の記事に対して武富士が即座に提訴したことは前回書いたが、同社は第二弾に対して販売事前差し止めの仮処分も裁判所に申請したという。

 マスコミには広告主としてにらみをきかせる一方、批判記事を書くところは即座に提訴するというのが、武富士のやり方と言われる。集英社にも今回の記事をめぐって、大手広告会社幹部を通じて、直接トップに接触がなされたらしい。『週刊プレイボーイ』はそうした圧力に屈せず、武富士の広告を返上して告発を続ける意向で、既に第三弾も準備中だという。

 そうしたなかで警察はN氏逮捕に踏み切った。追及されている当事者がその事案で捜査にあたるという、これはもうブラックジョークというべきだろう。

 個人情報保護法は二十三日、ついに成立してしまった。本来、規制されるべきは大量の個人情報を持つ行政側のはずなのに、この法律では官が民を規制する。キャスターの筑紫哲也さんはそれを「キツネに鶏小屋の番をさせるようなものだ」と言っていた。今回の警察情報流出問題はその象徴的な事例といえる。
(メディア批評誌『創』編集長・篠田博之)